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心理学ワールド 85号 心理学ライフ 赴任先で出会った新しい楽しみ 田中 大介(鳥取大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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45  私は10年ほど前に鳥取大学へ 赴任しました。キャンパスから車 で5分も走れば美しい日本海の海 岸にでられます。「この海に入り たい」という思いからサーフィン を始めました。今回,サーフィン について語ってよいという機会を いただきましたので,心理学徒目 線からサーフィンを語ります。 日 常  サーフィンとは,沖から岸へと 打ち寄せる波にサーフボードとい う板を使って乗るスポーツです。 サーフィンの最適時は早朝。陸か ら海に向かう陸風は夜にふきます が,この陸風は波の面を整えるの です。陸風が海風にかわるまでの 時間帯が重要なのです。そのた め,夜明けとともに海に入り,ひ としきり練習したら家に帰って朝 食を済ませて出勤,というのが理 想的な生活スタイル。これが実現 できるのが「海至近物件・鳥取大 学」の良さです。ただ,残念なこ とに一般的なサーフィン・シーズ ンである夏,日本海にはあまり波 は立ちません。日本海のメインは 「西高東低」の気圧配置になる冬。 サーフィンはウィンタースポーツ なのです。冬は日の出が遅いので 出勤前はできません。 学習科学の題材として  サーフィンは上達の難しいス ポーツとして知られています。反 復練習が難しいのです。「バラン スをとって斜面を滑る」という点 はスキーやスノーボードに近い ですが,海にはリフトがありませ ん。時には流れに流されつつ,波 が割れるところまで泳いでいく のが一苦労。そして,たとえ先に 待っていても,後から来た上級者 に波をとられてしまえば,延々と 浮いているのみ。それでも稀には 波に乗れることも。そのときの感 動たるや,他に例えようのないフ ロー体験です。そんな超低比率の 部分強化スケジュールによって, 私はやみつきになりました。海外 ではセラピーとして利用されるこ ともあるようです。確かに「今, この波」に集中することでストレ ス解消になっています。  よく,「二度と同じ波は来ない」 と言われます。波の向きや周期, 風向や潮など,刻々と変化する状 況に対し柔軟に対応しなければな りません。多くのパラメータを同 時処理して最適な行動をとる…… サーフィンは潜在学習課題に他な りません。このテーマで博士論文 を書いた私にとってサーフィンは 実践研究でもあるのです。  朝練で顔を合わせる先輩方か ら技術的なアドバイスをもらう ことも多いのですが,それを通じ て,身体的な動作をどんな言葉に 置き換えるか,に興味をもってい ます。例えば「テイクオフ」とい う,波から力をもらって立ち上が る基本的な動作に関しても,初心 者と中級者では「コツ」が異な る,ということを習いました。身 体が動くようになってはじめて理 解できるようになる言葉もある, というのが面白いです。上達する につれて自分からどんな言語表現 がでてくるのか,楽しみです。 文化としてのサーフィン  「サーフィンを始めると人生が 変わる」と言われます。サーフィ ンはスポーツという側面だけでは なく,文化としての側面もあるの です。愛好者同士のコミュニティ もありますし,人間のコントロー ルをこえた「波」という自然の力 を利用した遊びなので,必然的に 自然に対する畏敬の念を抱き,そ こから独特の自然観や世界観を 構築するのでしょう。「まち」と 「自然」の境界としての海岸に立 てば,幾多の漂着物や海岸浸食な どを目の当たりにすることで,お のずと環境問題に対する意識も芽 生えます。APA(アメリカ心理 学会)は2019年のトレンドとし て「気候変動に関する心理学者の 貢献」を挙げていますが,私も一 心理学徒として気候変動や環境問 題に関して問題提起したいです。  さて私は鳥取大学サーフィン部 顧問なる肩書きもいただいていま す。豊かな自然の恵みを享受しつ つ,きちんと講義にも出席できる 環境は希有です。サーフィンと勉 強を両立させたい高校生のみなさ ま,ぜひ鳥取大学を進学先候補と してご検討ください。

赴任先で出会った新しい楽しみ

鳥取大学地域学部 准教授

田中大介

(たなか だいすけ) 2006年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得 退学。博士(学術)。JST社会技術研究開発センター研究員 などを経て現職。専門は認知心理学,発達心理学。著書は 『単純接触効果研究の最前線』(分担執筆,北大路書房),『保 育の心理学Ⅰ』(分担執筆,大学図書出版)など。 3 年前,鳥取大学杯での一コマ。 Photo by Kota Yoshida

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